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次世代スマートグリッド開発に向けた大規模ネットワーク系のモジュラ設計理論構築
工学院 システム制御系 助教 石崎 孝幸

近年、米国や欧州を中心として、電力システムへの再生可能エネルギー(再エネ)の導入が盛んに進められている。我が国でも同様に、40GW超の太陽光発電設備がすでに導入されており、今後も再エネ導入量の増加が見込まれている。

発電機群や消費者群などのまとまりをサブシステムのひとつと捉えれば、電力システム全体は送電線などの物理網や制御・通信などの情報網によって多数のサブシステムが相互接続された大規模ネットワーク系(システム・オブ・システムズ)とみなすことができる。この観点では、メガソーラーなどの新たな設備の導入は、電力システムという大規模ネットワーク系に対する「新規サブシステムの追加導入」であり、太陽光発電で従来型の火力発電などを代替することは、「既存サブシステムの新規サブシステムへの取り換え」である。このモジュール化されたサブシステムの増改築において、新規設備の組み込みによる新たな価値の創出(再エネ活用によるCO2排出量削減など)が求められると同時に、既存のシステムで実現されていた望ましい性質は次世代システムにも適切に継承されること(周波数変動に対する系統安定度の保持など)が、大規模システムの継続的な技術革新には不可欠となる。特に、複数の競争的な管理者による個別のサブシステム(モジュール)最適設計がシステム全体の最適設計につながる仕組みづくり、すなわち、競争的主体によるオープン・イノベーションを促すシステム構造の設計が重要となる(図1)。

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図1:複数主体によるモジュール最適設計がシステム全体の最適設計につながる仕組みづくりが大規模系設計に必要

このようなモジュラ設計思想に基づくシステム設計の重要性は様々な文献で指摘されており、ドイツのインダストリ4.0が産業構造モジュール化の一例に挙げられている。しかし、このコンセプトを具体的に体現する理論は、少なくともシステム制御理論分野では確立されていない。このような背景のもと、我々の研究グループでは、動的な(微分方程式で記述される)大規模ネットワーク系に対するモジュラ設計理論の構築に取り組んでいる。その成果のひとつとして、個別のサブシステム最適設計をモジュール化する仕組みに位置づけられる、レトロフィット制御理論(レトロフィット:部分的なシステムの増改築)を世界に先駆けて提唱した(図2)。本理論では、注目するサブシステムのみに対して設計された個別最適制御によって、システム全体の安定性の保証と制御性能の向上を実現するコントローラの設計法を与えるとともに、すべてのレトロフィットコントローラを特徴づける必要十分条件の導出にも成功している。本手法の有効性は、風力発電連携系統に対するプラグイン型制御技術開発への応用などにより示されている(注1)。さらなる展開に向けて、ノースカロライナ大学のA. Chakrabortty准教授がPIを務める、レトロフィット制御を表題にしたNSFのプロジェクト(注2)も始動している。

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図2:複数主体による個別最適制御問題(左)をレトロフィット制御問題(右)として定式化し解を与えた

(注1)JSTプレスリリース第1286号:http://www.jst.go.jp/pr/info/info1286/index.html
(注2)EPCN Grant Award #1711004:https://www.nsf.gov/awardsearch/showAward?AWD_ID=1711004