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薬物抗体複合体の生産技術を指向した抗体修飾法の確立
科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 助教 佐藤 伸一

Antibody-Drug Conjugate(ADC)は今最も注目される次世代抗体医薬の一つであり、がん細胞に強力な殺細胞効果を持った薬剤をデリバリーする手法である。ADC開発において重要な項目として、①高活性な薬物部位の構造、②血中では安定であるが腫瘍内では薬物を放出できるリンカー構造、③抗体との結合部位の制御が挙げられる。これまでに①と②については研究が盛んに行われ、有用なものが開発されている。③抗体との結合部位の制御は残された課題であると言え、抗体の構造上に存在する多点の反応点でランダムに起きる有機化学反応(求電子剤‐求核性アミノ酸残基の化学)を利用して薬物と抗体を共有結合させる手法が用いられてきた。しかし、抗体はその構造に由来する機能(抗原結合能、血中安定性、エフェクター細胞との結合能、等)を有しており、ADCにおいては、これらの機能を損なわずに薬物を結合させる必要が有るため、薬物の結合位置の制御は重要な課題である。部位特異的な抗体修飾によるADC開発は次世代抗体医薬品開発に大きく貢献する重要度の高い解決課題であるといえる。

我々はタンパク質のチロシン残基特異的に低分子化合物を共有結合で修飾する化学反応を開発した。本研究ではチロシン残基修飾法の高効率化を行い、タンパク質が持つ機能を失活させずに、任意の低分子化合物での化学修飾を可能にする方法を開発する。

また、チロシン残基はタンパク質の三次元構造中で様々なタンパク質表面への露出度をとり得る芳香族アミノ酸残基である。我々が開発中の方法が、タンパク質表面に露出したチロシン残基に選択性を持つことと、抗体の構造中においては特定の領域にのみチロシン残基がタンパク質表面に露出することに着目した。本研究においては、抗体の部位特異的なチロシン残基修飾によりADCを作成する方法に挑戦する。


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