特集詳細

低次元半導体の特異な電子構造を利用した熱・電子機能性材料の設計と実証
科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 准教授 片瀬 貴義

酸化物のようなイオン性の強い無機結晶の殆どは電気絶縁体であり、能動的な電子機能は望めないと考えられてきました。一方で、イオン結合と共有結合が混在する無機結晶では、InGaZnO4やLaCuOSeのように、自然の層状結晶構造中に量子井戸類似の低次元構造(自然量子構造)を持つものがあり、通常のバルク材料には無い、新しい光・電子機能が見出されています。私は、2006年から2013年まで細野秀雄教授・神谷利夫教授の研究室に属し、このような自然量子構造を持つ層状化合物を薄膜化して、新電子機能デバイスへ応用する研究を行ってきました。例えば、2008年に第二の高温超伝導体として発見された層状鉄系化合物に興味を持ち、平松秀典准教授(当時は研究員)と共同で、レーザーでバルクを瞬時に蒸発させるパルスレーザー堆積法により、世界で最初に超伝導薄膜とジョセフソン接合素子や超高性能超伝導薄膜線材などのデバイスを実現してきました。このような層状化合物が持つ特異な量子構造を利用することで、従来よりも特性の優れた、新しい電子機能デバイスを実現できることを学びました。

2017年4月にフロンティア材料研究所の准教授に着任してから、これまでの光・電子機能から熱機能へ展開して、層状結晶の低次元量子構造を活かして新しい熱・電子機能を発現する新材料の開拓を目指して研究を進めています。例えば、排熱を有効利用する方法として、熱を電気に変換する「熱電変換技術」が期待されていますが、熱電変換の効率は最大でも10~17%程度に留まっており、大規模な応用への弊害となっています。熱電変換の効率は、熱電材料の熱起電力の大きさS、電気の流れやすさσ、熱の流れやすさκで決まっており、大きなS、高いσ、低いκが要求されます。しかし良好な半導体では、キャリア密度を増やしてσを上げるとSが下がる「トレードオフの相関」があるために、従来材料では高いSσを両立させることはできません。そこで筆者は、熱電材料が根本的に抱えるトレードオフの相関に縛られず、熱電性能を向上させる方法として、電子フォノン相互作用によって発現する“フォノンドラッグ効果”に着目しています。一般的な熱電材料は、温度差により電子が拡散されることで発電しますが、フォノンドラッグ効果は、温度差によりフォノンが輸送され、それと共に電子を引きずることで発電する現象で、Sを付加的に増大させ、熱電性能を向上させる可能性があると考えています。最近では、電子を二次元に閉じ込めた量子構造を用いることで、このフォノンドラッグ効果が発現し、Sのみを増大させることに成功しました。今後、層状化合物の自然量子構造内にフォノンドラッグ効果を引き出すことで、熱電変換性能を飛躍的に高めた新材料を実現したいと考えています。これにより、排熱を効率良く集めて、電気エネルギーに変換できる熱電変換デバイスを実現し、現在は難しいとされる低温熱回収とIoT社会に向けたセンサー用自立電源への応用を目指していきたいと思います。