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レドックスを基盤とした光合成制御ネットワークの解明
科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 助教 吉田 啓亮

植物は光合成によってバイオマス生産を達成している。移動能力を欠く植物が絶えず変動する地球環境でどのように光合成を制御しているのか、その解明は植物基礎科学の中心的課題である。また、その理解は植物の高機能化のための指針を与え、例えば農業現場における作物・穀物の収量増加を可能にし得る。すなわち、食糧資源の確保、代替エネルギー開発、地球温暖化対策といった喫緊の社会的要請に応えるためにも重要な課題である。

我々は、酸化還元を基盤としたタンパク質の機能制御系である“レドックス制御システム”に注目し、新規の光合成制御機構の解明に向けて研究を行っている。植物がレドックス制御システムを持つことは約40年前に分かっていたものの、それが光合成の調節や植物の生育にどのように影響するのかは明らかにされていなかった。また、今世紀に入ってシステムに包含されるタンパク質因子群が網羅的に同定されたものの、それらがどのように組織されてシステム全体を構成しているのかの解明が待たれていた(図1)。我々は、タンパク質分子~オルガネラ~植物個体を対象とした分野縦断型の解析にオリジナルの解析技術を織り交ぜた包括的かつ独創的な研究を行い、レドックス制御システムの分子基盤から生理意義までを多角的に切り拓いた。中でも、半世紀にわたってブラックボックスとなっていたタンパク質酸化経路を完全な形で同定し、夜に光合成機能を抑制するという新たな光合成制御のしくみを解明した成果(図2)は、当該分野にブレイクスルーをもたらしたものである。

少しずつレドックス制御システムの実体が見えてきたものの、全貌解明にはまだまだ至っていない。今後さらに研究をすすめ、光合成を統御するためのシステム全体像の解明を目指す。


参考文献
1.K. Yoshida, T. Hisabori, PNAS 113, E3967–E3976 (2016)
2.K. Yoshida, A. Hara, K. Sugiura, Y. Fukaya, T. Hisabori, PNAS 115, E8296–E8304 (2018)


図1 植物の光合成を統御するレドックス制御システム

図1:植物の光合成を統御するレドックス制御システム
近年の網羅的解析によってシステムを構成する多様な因子が見つかってきた。システム全体はどのように構成され、環境変化に対してどのように応答し、植物の生存戦略においてどのような役割を果たすのか、その包括的解明が課題である。


図2 光合成機能を夜に眠らせるためのタンパク質酸化経路

図2:光合成機能を夜に眠らせるためのタンパク質酸化経路
日没時に光が遮られると、TrxL2/2CP経路を介して標的タンパク質が酸化・不活性化され、それによって光合成機能が抑制される。参考文献2より改変。