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実代数的二層型最適化の提案と信号処理アルゴリズムへの応用
工学院 情報通信系 助教 山岸 昌夫

最適化に基づく信号処理手法の多くは,信号処理に現れる諸問題を(単層の)最適化問題として定式化し,その近似解法を信号処理アルゴリズムとして活用するものである。これらの手法は,推定対象の「観測情報」と「先験情報」を同時に活用する柔軟な枠組みとして,スパース信号処理やデータサイエンスなどの発展において中心的な役割を果たしている。一方で,これらの手法は,無限個存在する停留点(最適解の候補となる点)の一つを見つけることが目標となっており,停留点全体から「応用先の評価尺度の意味で優れた停留点」を選び取る能力を有していない。

この能力の実現のために,本研究では,停留点同士を比較するための基準を導入し,停留点全体が成す集合の上で基準を最適化すること,すなわち,二層型最適化問題を対象としている(図1)。ここで,二層型最適化問題は,最適化問題の停留点の集合を制約とし,その上で停留点比較基準を最適化する問題を指している。停留点比較基準を巧妙に設計することにより特別な停留点を特徴付けることができるため,二層型最適化問題は「優れた停留点」を選び取る能力を自然に実現可能である。しかし,この問題は極めて一般的な非凸制約や非凸関数を対象としているため,近似解法や収束解析を与えることは現実的ではない。そのため,制約と停留点比較基準を実代数幾何学の範疇に限定した「実代数的二層型最適化問題」を対象として,実用的な近似解法と収束解析を与えることを目的としている。近年,実代数的な最適化問題に対して停留点の効率的な探索法が提案されていることを鑑み,それらの収束解析から得られる知見を最大限活用することにより,研究目的を達成したいと考えている。

図1:二層型最適化問題と「優れた停留点」

図1:二層型最適化問題と「優れた停留点」