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機械学習によるイオン導電特性予測を指針とした新規リチウム導電体探索
物質理工学院 応用化学系 助教 鈴木 耕太

安全性、信頼性に優れる全固体型のリチウム電池の実現が望まれています。その実現の鍵となるのが、固体内を高速でリチウムイオンが拡散できる物質、つまり高性能な固体電解質材料の開発です。しかし電解質材料の開発には膨大な時間と手間がかかり、10年スケールで新物質が見いだされます。そこで我々は、古典的な固体化学の考え方に基づく物質探索に機械学習を融合させた、新しい材料探索法の開拓に取り組んでいます。京都大学の世古博士らが開発した材料推薦システムを物質探索に導入することで、新材料の発見は加速することができました。しかし、推薦システムは実現可能性の高い未知材料組成を予測するシステムであり、イオン導電特性の指標が内包されていないため、高イオン導電特性を示す材料の発見には至っていません。そこで本研究では、推薦システムにさらにイオン導電特性を予測する機械学習を組み込み、高イオン導電特性を示す新物質発見の加速を目標としています。

一般に、イオン導電特性は結晶構造と強く相関するため、材料の結晶構造を明らかにすることが性能を説明するためには必要です。機械学習を用いた場合も同様で、結晶構造が明らかな物質を対象にその予測は行われています。このような状況を打破するため、材料推薦システムをより有効に活用する方法を考え、古典的な固体化学の指標となっている高イオン導電特性を示す結晶構造の特徴を、組成を中心とした説明変数で記述することで「機械学習を使って、組成情報だけからイオン導電特性の予測ができないか?」というアイデアが浮かびました。つまり、独自に開拓を進めてきた材料推薦システムを用いた物質探索法に、組成情報からイオン導電特性予測をする機械学習を組み込み、推薦システムと導電特性予測の融合を実現することが本研究の目的です。非常にハードルが高い研究テーマですが、組成だけから物性を予測することができると、将来的にはイオン導電体に限らず様々な新材料探索に応用できる可能性があります。