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先進医療に向けた金ナノ粒子合成制御ペプチドのデザインモデル構築
物質理工学院 応用化学系 助教 田中 祐圭

金ナノ粒子は安定性が高く毒性の低い複合機能有価材料として、特に先進医療分野で注目されている。一方で、体内に投与された金ナノ粒子の標的部位への集積化に課題があり、標的に応じて粒子の形態(形やサイズ)を最適化する必要性が指摘されている。しかしながら、金ナノ粒子の形態制御に寄与できる分子種の数が限られており、様々な形態の金ナノ粒子を「自在」かつ「精密」に合成制御できる手法は確立していない。

そこで我々は分子多様性が膨大であるペプチドに着目し、貝や骨などに代表される生物による鉱物形成(バイオミネラリゼーション)プロセスに倣った、ナノ粒子合成の精密制御技術の開発を推進している。これまでに、セルロース膜上に異なる数百ものペプチドを円形スポット状に化学合成できるペプチドアレイ技術を活用し、粒子合成に寄与するミネラリゼ-ションペプチドを効率的に探索できる手法を開発してきた。この技術により探索された様々なペプチドを利用することで、室温、中性pHで各ペプチドと金イオンを混合し静置するだけで、ペプチドの配列依存的に形状や物性の異なる様々な金ナノ粒子を合成できている(グリーン合成)。現在は、各ペプチドと合成されるナノ粒子の特性に関する相関性を詳細に解析し、様々な形態の金ナノ粒子を「自在」かつ「精密」に合成制御できるペプチドデザイン技術の開発とその医療応用への展開を実施している。

本技術は、生体分子と金属イオンを混ぜるだけで有価ナノ粒子を合成できることに大きな特徴がある。一般的なナノ粒子合成には、毒性の高い界面活性剤や強い酸化剤、還元剤などが、高温高圧条件などで利用され、合成過程における環境負荷や残留する原料の毒性が課題として挙げられている。本研究開発はこれらの課題を解決するだけでなく、これまでに報告例のない形状や物性を示す、多種多様な有価ナノ粒子を合成できるペプチドの探索技術としての幅広い展開が期待される。

ペプチドを利用したナノ粒子のグリーン合成技術概念図

ペプチドを利用したナノ粒子のグリーン合成技術概念図