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強誘電体を用いた超高速充放電可能なリチウムイオン薄膜電池の創成
科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 助教 安井 伸太郎

電気自動車(EV)や電子デバイスまで、それらの動力源である二次電池は我々の生活に必要不可欠になっている。リチウムイオン電池の問題点の一つに充電する際に長時間かかることが上げられる。また高速で充電を行う事によって電池は劣化し、繰り返し使用する事が難しくなる。これらの問題点は、活物質と電解質の界面において副反応が起きることで析出する相(固体電解質界面、SEIと呼ばれる)が、リチウムイオンの拡散を阻害することで起こる。この界面の制御を材料学の視点からアプローチし、強誘電体BaTiO3を界面に挿入することで解決した。SEIの析出メカニズムを理解し、それらをコントロールすることで、充電時間を大幅に短縮(36秒で50%、72秒で70%の充電量)を可能とするリチウムイオン電池を開発した。さらにもう一点驚きなのは、このシステムを適用すると、繰り返し使用しても容量の低下があまり見られない。従来型のリチウムイオン電池であれば高速充放電を行うと極端に容量が減少する劣化挙動が見える。本研究では800回以上繰り返しても電池の全容量は初期値に比べて90%以上を保つことを可能とする非常にタフな電池であることが理解できる。これもまた界面コントロールされた事による成果であると考える。

当該分野の研究の主流は性能向上を目的とした電解質溶液への添加あるいは正極と負極材料の選択あるいは形状制御、ナノサイズ化等、プロセス研究である。一方で、反応式としては単純でありながらも、その実複雑な充電/放電反応機構を有するリチウムイオン電池の基本反応原理は未解明な点が多いのが現状である。このような状況で原子配列まで制御して作成した薄膜正極上で起こる反応は場所を特定しやすく解析が非常に容易となるため、粉末を用いた電池では露わに見えてこなかった素反応が本研究で炙り出されてきた。これまでの知見を元にして、材料科学の視点からリチウムイオン二次電池の反応機構や特性向上、原理解明を達成することで、既存デバイスの特性向上、機構の最適化と全固体電池への応用を期待できる。昨今の発展がめまぐるしい計算科学とエピタキシャル薄膜を用いた本研究と複合して相互に補完しあうことで、実際にリチウムイオン二次電池にて起きている現象の解明を加速させられると期待している。

図 今回作製した3種類の薄膜(LiCoO2(LCO)薄膜:黒線、一様被膜:青線、ドット堆積:赤線)の段階的にCレートを増加させて充放電を行った際の放電容量の変化(左図)。また、 今回判明した三相界面でリチウムイオンの界面移動が促進されているモデル図(右図)。

図 今回作製した3種類の薄膜(LiCoO2(LCO)薄膜:黒線、一様被膜:青線、ドット堆積:赤線)の段階的にCレートを増加させて充放電を行った際の放電容量の変化(左図)。また、 今回判明した三相界面でリチウムイオンの界面移動が促進されているモデル図(右図)。